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エビデンス解説シリーズ 第1回/全3回

肩こりの原因は「血行不良」ではない? 研究データでくつがえった5つの通説【鍼灸師が解説】

公開日:2026年8月1日|読了目安:約13分|監修:平山竜慎(はり師・きゅう師/国家資格)

「肩こりの原因」として語られてきた説明を、査読論文と突き合わせて検証します。

「肩こりは血行不良が原因です」「疲労物質の乳酸がたまるからです」「ストレートネックだからです」──。肩こりについて検索すると、どのページにもほぼ同じ説明が並びます。当院にお越しになる方の多くも、この説明をご存じです。 ところが、この20年ほどで積み上がってきた査読論文(専門家の審査を通った研究)を丁寧に読んでいくと、その説明の多くが、実際のデータではうまく支持されていないことが見えてきます。なかには、研究者のあいだではすでに否定されているのに、一般向けの解説だけが更新されないまま残っているものもあります。 この記事では、草津市の望鍼灸院が、肩こりについて広く語られている5つの通説を、ひとつずつ研究データと突き合わせて検証します。全3回のシリーズの第1回です。

はじめにお伝えしたいこと

この記事は「肩こりのケアは無意味だ」という話ではありません。「説明が正しいかどうか」と「ケアが役に立つかどうか」は、別の問題です。温めて楽になる、施術のあと軽くなる──その体験そのものを否定するものではないことを、先にお断りしておきます。


1|そもそも「肩こり」とは何を指す言葉なのか

意外に思われるかもしれませんが、「肩こり」は日本語圏に固有の症候名で、国際的な診断カテゴリーには対応するものがありません。海外の研究で近い概念とされるのは、主に次の3つです。
研究上の概念 中心にあるもの
Neck pain(頸部痛) 後頭部から肩甲帯までの範囲の「痛み
Trapezius myalgia(僧帽筋筋痛症) 僧帽筋上部の痛み+圧痛点+触れてわかる硬さ
Myofascial pain syndrome(筋筋膜性疼痛症候群) トリガーポイントによる局所の痛みと関連痛
肩こり(日本語) 「こり感・張り感・重さ・不快感」。痛みは必須ではない
日本語の「肩こり」と、海外研究の概念は完全には重ならない。
ここが決定的に重要な点です。日本語の「肩こり」の中心にあるのは痛み(pain)ではなく、こわばり感(stiffness sensation)です。「痛くはないけれど、重い・張っている・つまっている」。多くの方がそう表現されます。 ところが海外の研究は、そのほとんどが「痛み」を測っています。つまり、私たちがいちばん知りたい「こり感」というアウトカムが、そもそも測定されていない研究が多いのです。しかも日本国内の研究でも「肩こり」の定義は統一されていません。

POINT

「肩こりの原因はこれです」と一言で言い切れる研究が存在しないのは、研究の質が低いからではなく、研究ごとに「肩こり」の定義が違うからです。この前提を押さえておくと、以下の話がずっと理解しやすくなります。

2|データで見る、日本人の肩こり

厚生労働省の「国民生活基礎調査」は、日本人の自覚症状を継続的に調べている大規模統計です。最新の大規模調査である令和4年(2022年)調査では、自覚症状のある人(有訴者)は人口千人あたり276.5人。男性246.7人に対し、女性304.2人と、女性のほうが高くなっています。 そして、この年に小さな、しかし注目すべき変化が起きました。

2022年に起きた順位の入れ替わり

それまで長年、男性は1位「腰痛」・2位「肩こり」、女性は1位「肩こり」・2位「腰痛」という状態が続いていました。ところが令和4年調査では、男女とも1位が「腰痛」となり、女性の「肩こり」は2位に後退しています。

ただし、これが症状の実態が変わったのか、コロナ禍による生活様式や調査時期の影響なのか、報告のされ方の変化なのかは判断できません。単年の変動を過大に解釈すべきではない、というのが妥当な読み方です。

国際的なデータでも、頸部痛は世界204の国・地域で高い頻度で報告され、女性が男性より一貫して多いことがわかっています(GBD 2021 Neck Pain Collaborators, Lancet Rheumatology 2024)。この性差はほぼすべての国・年齢層で再現される、非常に頑健な所見です。 ただし──「なぜ女性に多いのか」は、まだ決着がついていません。筋力に対する相対的な負荷、ホルモン、痛みの感じやすさ、社会的な役割負担、症状を報告する傾向。候補はいくつもありますが、決定的なものはないというのが正直なところです。

3|5つの通説を、研究データで検証する

ここからが本題です。よく耳にする5つの説明を、ひとつずつデータと突き合わせていきます。
肩こりのよくある説明と研究データの比較図。血行不良・乳酸・ストレートネック・27kg・姿勢の5つの通説と、それぞれのエビデンス評価を対比した表
よく聞く5つの説明と、現在の研究でわかっていることの対比。

通説①「血行不良で筋肉が酸欠になるから、こる」

もっとも広く流通している説明です。「筋肉が硬くなる → 血管を圧迫する → 血流が悪くなる → 酸素が届かない → こる」という筋書きですね。 これを直接調べた研究があります。マイクロダイアリシスという手法で、僧帽筋に細いカテーテルを留置し、筋肉のあいだを満たしている液(間質液)を生きた状態で採取して成分を測るというものです。北欧の労働衛生研究グループが積み重ねてきた、肩こり研究のなかでもっとも再現性の高い客観データと言えます。 結果は明快でした。慢性的な僧帽筋の痛みを持つ人では、健康な人と比べて次の物質が高値を示します。
  • 乳酸・ピルビン酸(安静にしているときから高い)
  • グルタミン酸(末梢の痛みセンサーを敏感にする)
  • セロトニン、カリウム(同じく痛みセンサーを刺激する)
つまり、筋肉の代謝環境が変化していること自体は事実です。ここまでは通説と一致しているように見えます。 ところが──同じ研究グループが、近赤外分光法(NIRS)で筋肉の酸素化状態を同時に測定したところ、予想外の結果が出ました。

判定:支持されていない 僧帽筋筋痛の人の筋肉の酸素化は、健康な人と有意に変わらず、血流もむしろ保たれていました(Sjøgaard et al., Eur J Appl Physiol 2010)。

乳酸が高いのは「酸素が届いていないから」では説明できません。現在は、酸素の供給不足ではなく、ミトコンドリアの働きや、代謝の需要側の変化による可能性が高いと考えられています。

通説②「疲労物質の乳酸がたまるから、こる」

①とセットで語られる説明です。しかし「乳酸=疲労物質」という理解は、運動生理学の分野ではとうに否定されています。 乳酸は疲労を引き起こす老廃物ではなく、むしろエネルギー源として心臓や他の筋肉で積極的に使われる物質であることが明らかになっています。運動後の筋肉痛の原因でもありません。 前項のとおり、肩こりの筋肉で乳酸値が高いこと自体は測定されています。ただしそれは「疲労物質がたまって流れていない」のではなく、代謝が嫌気性(酸素をあまり使わない経路)に傾いていることを示す指標と読むのが適切です。指標を原因と取り違えている、というのがこの通説の構造です。

判定:否定されている 乳酸は「疲労物質」でも「老廃物」でもありません。「乳酸を流す」という表現には、生理学的な裏づけがありません。

通説③「ストレートネック・首の骨の変形が原因」

整形外科でレントゲンやMRIを撮って、「ストレートネックですね」「椎間板が潰れていますね」と言われた経験のある方は少なくないと思います。 この点について、日本から世界的に重要な研究が出ています。Nakashima らが Spine 誌に発表した、症状のまったくない健康な人1,211名の頸椎MRIを撮影した研究です(2015年)。20代から70代まで、各年代・各性別に100名以上ずつを集め、全員が神経症状なし。その人たちの首の中身を見たら、どうなっていたか。
症状のない健康な人1211名の頸椎MRI結果を示すグラフ。椎間板の膨隆が87.6パーセント、20代でも男性73.3パーセント・女性78.0パーセントに認められた
症状のない1,211名の頸椎MRI(Nakashima et al., Spine 2015 のデータをもとに作図)。
    • 椎間板の膨隆:87.6%(20代でも男性73.3%、女性78.0%)
    • 脊髄の圧迫:5.3%
    • 脊髄の信号変化:2.3%
症状のない健康な人1211名の頸椎MRI結果を示すグラフ。椎間板の膨隆が87.6パーセント、20代でも男性73.3パーセント・女性78.0パーセントに認められた 症状のない人の約9割に、椎間板の膨隆がありました。しかも20代の時点で、すでに4人に3人です。 さらに同じグループの続報(Machino et al., 2022)では、職業(重労働かデスクワークか)による椎間板変性の程度に、有意な差は認められませんでした

判定:原因の説明としては成立しない 症状のない人の大多数に同じ所見がある以上、その所見だけで「だから肩がこる」と説明することはできません。これらは「異常」というより加齢にともなう正常な変化として読むべきものです。頸椎のカーブ(ストレートネック)と症状の関連についても、横断研究の結果は一貫していません。

誤解しないでいただきたいのは、これは「画像検査が無意味」という話ではないということです。後述する危険なサインを見分けるために、画像検査は不可欠です。ここで言えるのは、「画像に写った加齢変化」と「今のこり感」を安易に結びつけるべきではない、ということです。

通説④「スマホで首を15°曲げると、27kgの負担がかかる」

数年前からテレビやSNSで爆発的に広まった数字です。「首の角度が0°なら約5kg、15°で12kg、30°で18kg、45°で22kg、60°で27kg」──ご覧になったことがあるかもしれません。 出典は Hansraj による2014年の論文(Surgical Technology International)です。しかしこの論文には、次のような問題が指摘されています。
  • 単著で、実質的な査読やデータの提示が乏しい
  • 静的なモーメント(てこ)の計算を「圧縮荷重」と読み替えている。筋肉の張力や関節の動き、体の動的な補正を無視した単純化モデル
  • モデルが実際の体で成り立つかを検証した実測との比較が、一切ない
  • この数値をもとに「将来こうなる」と予測した前向き研究は存在しない

判定:数値には根拠がない(方向性のみ正しい) 頭が前に出るほど、支える筋肉に必要な張力が増える──という方向性は物理的に正しいものです。しかし「27kg」という具体的な数値と、それが症状を予測するという主張には、根拠がありません

通説⑤「姿勢の悪さが、肩こりをつくる」

これがいちばん根強く、そしていちばん微妙な問題です。 頭部前方位(いわゆる「頭が前に出た姿勢」)と首の痛みの関係を調べたメタ解析(Mahmoud et al., 2019/15の研究を統合)によると、たしかに成人では、首が痛い人のほうが頭部前方位が大きいという結果が出ています。ただし、その差は頭頸角の平均で4.84°、95%信頼区間は0.14〜9.54──下限がほぼゼロで、非常に不安定な数字です。 そして、解釈上ここが決定的です。
  1. 統合された研究は、すべて横断研究(ある一時点を切り取った調査)でした。「痛いから姿勢が変わった」のか「姿勢が痛みを生んだ」のか、区別できません。
  2. 青年(10代)では、ほとんどの指標で関連が見られませんでした。これは「長年の姿勢の蓄積が痛みを生む」という説明よりも、「痛み・加齢・筋力低下が姿勢を変える」という説明のほうと整合的です。
  3. オフィスワーカーを追跡した前向きコホート研究の系統的レビュー(Paksaichol et al., 2012/47の候補因子を検討)では、姿勢は将来の首の痛みの発症を、ほとんど予測しませんでした。

判定:相関はある。しかし「原因」とは言えない 姿勢と症状に関連が見られることは事実です。しかし因果の向きが逆である可能性が十分にあり、将来の発症を予測する力もほとんど確認されていません。「姿勢を直せば肩こりが治る」という言い方は、現時点のデータを超えています。

とはいえ、姿勢の話がまったく無意味というわけでもありません。この点は次章で触れます。
肩こりのよくある説明と研究データの比較図。血行不良・乳酸・ストレートネック・27kg・姿勢の5つの通説と、それぞれのエビデンス評価を対比した表

よく聞く5つの説明と、現在の研究でわかっていることの対比。

4|では、いま何が支持されているのか

ここまで「支持されていないもの」を並べてきました。では、データに裏づけのある要因は何なのでしょうか。第2回・第3回で詳しく扱いますが、方向性だけ先にお伝えします。
現在支持されている肩こりの成り立ちを示すフロー図。素因、持続的な低強度の筋活動と精神的負荷・睡眠不足という曝露、末梢と中枢の変化、こり感、自己増強ループの流れ
現時点でもっとも支持されている「肩こりの成り立ち」の流れ。

①「どれだけ強く使ったか」より「どれだけ休めたか」

筋電図(EMG)で僧帽筋の活動を長時間記録すると、症状のある人には「筋活動が完全にゼロになる瞬間(EMGギャップ)」が有意に少ないことがわかっています。負荷の大きさそのものより、途切れず使い続けていることが問題である可能性が高い。 姿勢の話が意味を持つとすれば、この文脈です。「良い姿勢を保つ」ことより、「同じ姿勢を続けない」ことのほうが、データとの相性がずっと良いのです。

②心理社会的な要因は「おまけ」ではなく「主役」

これは、多くの方にとって意外な結果かもしれません。 Shahidi らは、新しく採用されたオフィスワーカー171名を採用直後から12か月間追跡し、誰が慢性的な首の痛みを発症するかを調べました(J Pain, 2015)。心理社会的・身体的・神経生理学的な要因を同時に測定した、質の高い前向き研究です。

発症を予測した要因(上位順)

  1. 抑うつ気分(もっとも強い予測因子)
  2. 体に備わった痛みを抑える働きの弱さ(発症するから存在していた)
  3. 首の伸筋の持久力の低さ

そして──姿勢は、予測因子として抽出されませんでした。

これは「肩こりは気のせい」という意味では、まったくありません。気分の落ち込みが、実際に筋肉の活動と痛みの感じ方を変えるという、生理学的な話です。実際、精神的なストレス課題(暗算など)を与えるだけで、物理的な負荷がなくても僧帽筋の筋電図活動が有意に上がることが示されています。

③睡眠は「結果」であると同時に「原因」

睡眠の量・質の不足は、将来の筋骨格系の痛みを独立して予測することが、複数の長期追跡研究で示されています。「痛いから眠れない」だけでなく、「眠れていないから痛くなる」方向も確実に存在します。介入の対象として、もっとも過小評価されている要素かもしれません。 さらにもうひとつ、第2回で詳しく扱う重要な知見があります。超音波エラストグラフィで測った「筋肉の物理的な硬さ」と、本人が感じる「こり感の強さ」は、対応していないという報告です。主観と客観は、どうやら別の変数です。

5|こんな症状は、まず医療機関へ

ここまでお読みいただいた方に、いちばんお伝えしたいことがあります。肩こりの世界で唯一「絶対に外せない」のは、危険なサインの見分けです。頻度は高くありませんが、見落としたときの代償が大きいためです。

⚠ 次のような症状があるときは、肩こりと決めつけず、早めに医療機関を受診してください

  • 突然の激しい首の後ろ・後頭部の痛み(首を回した後、めまい・ものが二重に見えるなどを伴う)
  • 手や腕のしびれ・力が入らない/ボタンがかけにくい・箸が使いにくい・歩きにくい
  • 安静にしていても痛む、夜間に強くなる痛み/原因不明の体重減少/がんの既往
  • 発熱があり、首を前に曲げられない
  • 動いたときに出る左肩〜あごへの痛み、冷や汗、吐き気、胸の痛み・息苦しさ
  • 50歳以上で、両肩・腰まわりの朝のこわばりが45分以上続く
これらは筋肉のこり以外の原因が関わっている可能性があります。まずは内科・整形外科などにご相談ください。鍼灸は、医療機関での治療と並行して受けていただくこともできます。

6|鍼灸院として、この結果をどう受け止めているか

正直に申し上げると、ここまで書いてきた内容は、施術者にとって都合の良い話ではありません。「原因はこれです、だからこう施術します」と言い切れたほうが、説明はずっと簡単だからです。 それでもこの記事を書いたのは、次のような理由からです。 肩こりに対するあらゆる介入の効果の大きさ(効果量)は、現在のところ小〜中程度にとどまります。運動療法も、徒手療法も、鍼も、マッサージもです。これは、次のことを意味していると考えています。

たったひとつの「原因組織」を見つけて修正するモデル──筋膜が癒着している/骨格が歪んでいる/血流が悪い、だからそれを直す──がもし本当に正しければ、もっと大きな効果が観測されているはずです。

観測されていないという事実そのものが、「原因はひとつ」というモデルへの反証になっています。
ですから当院では、肩こりを「ひとつの原因を取り除いて治すもの」ではなく、「複数の要因が重なって続いている状態を、ゆるめながら整えていくもの」として捉えています。こり固まった筋肉に鍼でアプローチして緊張をゆるめること、体を温めてめぐりを整えること──こうしたケアが楽になる助けになることは、多くの方が実感されるところです。 そのうえで、その場の変化だけで終わらせないために、負荷を途切れさせる工夫・睡眠・体の使い方を、その方の生活に合わせて一緒に考えていきます。「治す」ではなく「自己管理を支える」。データにいちばん忠実な態度は、そこにあると考えています。 感じ方や変化には個人差があり、すべての不調が鍼灸だけで解決するわけではありません。前章の受診サインがある場合は、そちらを優先してください。

7|よくある質問

Q.肩を温めたり、揉んだりするのは意味がないということですか?

A.いいえ、そうではありません。この記事が検証したのは「なぜこるのか」という説明の妥当性であって、ケアの有用性ではありません。温めて楽になる、施術後に軽くなるという体験は実際にあります。ただし、その効果が「血流が良くなって乳酸が流れたから」という理屈で説明されるわけではない、ということです。

Q.では結局、肩こりの原因は何なのですか?

A.ひとつに特定するモデル自体が、データに支持されていません。現在もっとも支持されているのは、「もともとの体質(痛みを抑える働きの個人差、筋の持久力)」に「途切れない筋活動・精神的負荷・睡眠不足」が重なり、筋肉の代謝環境と神経の感じやすさが変わっていく、という多因子のモデルです。第2回・第3回で詳しく扱います。

Q.ストレートネックと言われました。放っておいていいのですか?

A.「ストレートネックだから肩がこる」という因果関係は、現時点で証明されていません。過度に不安になる必要はないと考えられます。ただし、しびれ・脱力・歩きにくさなどを伴う場合は別です。第5章の受診サインに当てはまるものがあれば、必ず医療機関でご相談ください。

Q.姿勢は気にしなくていいのですか?

A.「完璧な姿勢を保つ」ことにこだわる必要は薄い、というのがデータの示すところです。それよりも「30〜60分に一度、同じ姿勢を崩す」ほうが、はるかに理にかなっています。前腕をデスクに預ける、マウスを体に近づけるといった工夫も、僧帽筋の活動を下げることが実測されています。

Q.揉むと硬さが取れた感じがするのですが、あれは何ですか?

A.とても良い質問です。実は「筋肉が物理的に硬いこと」と「本人が感じるこり感」は、測定上ほとんど対応していないことが報告されています。つまり「柔らかくなった」ことと「楽になった」ことは、同じ現象とは限りません。この主観と客観のズレは、第2回のメインテーマです。

8|まとめ|次回予告

  • 「肩こり」は日本語圏に固有の概念で、中心にあるのは痛みではなく「こり感」。海外研究をそのまま当てはめられない構造がある
  • 血行不良・酸欠説は、筋肉の酸素化を直接測った研究で支持されなかった
  • 乳酸=疲労物質という理解は、運動生理学ではすでに否定されている
  • ストレートネック・椎間板の変化は、症状のない人の約9割にも見られる加齢変化
  • 「首15°で27kg」は、妥当性の検証されていない単一論文の数値
  • 姿勢と症状に相関はあるが、前向き研究では将来の発症をほとんど予測しない
  • 代わりに支持されているのは、「休めていない筋活動」「気分・ストレス」「睡眠」という要因
知識は、それだけで肩を軽くしてくれるわけではありません。けれど「見当違いのことに時間とお金を使わずに済む」という点で、確実に役に立ちます。

次回予告|第2回

「こっている」とき、筋肉の中では実際に何が起きているのか 筋膜は本当に「癒着」するのか。トリガーポイントは実在するのか。そして──「筋肉の硬さ」と「こり感」が対応しないという、いちばん見落とされている知見について。今月中の公開を予定しています。

「マッサージしてもすぐ戻る」「何年も肩こりとつき合っている」──そんな慢性的な肩こり・首こりでお困りの方は、草津市の望鍼灸院にお気軽にご相談ください。お一人ずつのお体の状態と生活を伺ったうえで、施術とセルフケアの両面からご提案します。

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監修:平山竜慎(ひらやま りゅうしん)

望鍼灸院 代表/はり師・きゅう師(国家資格) 滋賀県草津市で、肩こり・眼精疲労・自律神経の乱れ・美容鍼などに対応。国内外の査読文献を継続的に確認しながら、おひとりずつの状態に合わせたオーダーメイドの施術とセルフケア指導を行っています。

参考文献

  • 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅲ 世帯員の健康状況
  • GBD 2021 Neck Pain Collaborators. Lancet Rheumatol. 2024;6(3):e142-e155.
  • Sjøgaard G, et al. Muscle oxygenation and glycolysis in females with trapezius myalgia during stress and repetitive work using microdialysis and NIRS. Eur J Appl Physiol. 2010;108(4):657-669.
  • Rosendal L, et al. Increase in muscle nociceptive substances and anaerobic metabolism in patients with trapezius myalgia. Pain. 2004;112(3):324-334.
  • Gerdle B, et al. Chronic musculoskeletal pain: review of mechanisms and biochemical biomarkers as assessed by the microdialysis technique. J Pain Res. 2014;7:313-326.
  • Nakashima H, et al. Abnormal findings on magnetic resonance images of the cervical spines in 1211 asymptomatic subjects. Spine. 2015;40(6):392-398.
  • Machino M, et al. Association between occupation and cervical disc degeneration in 1211 asymptomatic subjects. J Clin Med. 2022;11(12):3301.
  • Hansraj KK. Assessment of stresses in the cervical spine caused by posture and position of the head. Surg Technol Int. 2014;25:277-279.(※本文で批判的に検討)
  • Mahmoud NF, et al. The relationship between forward head posture and neck pain: a systematic review and meta-analysis. Curr Rev Musculoskelet Med. 2019;12(4):562-577.
  • Paksaichol A, et al. Office workers’ risk factors for the development of non-specific neck pain: a systematic review of prospective cohort studies. Occup Environ Med. 2012;69(9):610-618.
  • Shahidi B, Curran-Everett D, Maluf KS. Psychosocial, physical, and neurophysiological risk factors for chronic neck pain: a prospective inception cohort study. J Pain. 2015;16(12):1288-1299.
  • Lundberg U, et al. Psychophysiological stress and EMG activity of the trapezius muscle. Int J Behav Med. 1994;1(4):354-370.
  • 沓脱正計, 黒岩誠. 日本人が訴える肩こりの特徴について―欧米における neck pain との比較―. こころの健康. 2010;25(2).

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※本記事は、健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の効果・効能を保証するものではありません。紹介した研究は執筆時点で確認できたものであり、今後の研究により評価が変わる可能性があります。症状の感じ方や施術の効果には個人差があります。気になる症状がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。